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講義概要/Course Information
2020/04/28 現在

科目基礎情報/General Information
授業科目名
/Course title (Japanese)
現代数学入門A
英文授業科目名
/Course title (English)
Introduction to Modern Mathematics A
科目番号
/Code
MTH301z
開講年度
/Academic year
2020年度 開講年次
/Year offered
2/3/4
開講学期
/Semester(s) offered
前学期 開講コース・課程
/Faculty offering the course
情報理工学域
授業の方法
/Teaching method
講義 単位数
/Credits
2
科目区分
/Category
総合文化科目
開講学科・専攻
/Cluster/Department
情報理工学域
担当教員名
/Lecturer(s)
石田 晴久
居室
/Office
東1-501
公開E-Mail
/e-mail
ishida@uec.ac.jp
授業関連Webページ
/Course website
なし
更新日
/Last updated
2020/02/21 15:38:52 更新状況
/Update status
公開中
/now open to public
講義情報/Course Description
主題および
達成目標
/Topic and goals
(a) 主題

 20世紀前半に整備された現代数学の基礎としての枠組みを与える論理,集合論,実数論,ユークリッド空間を主体にして距離空間における一般位相の初歩を解説する.特に収束概念を伴う証明等に欠かせない実数の深い性質を説明する.

(b) 達成目標

 現代数学の基礎をなす概念や論理展開の方法を理解し,特に数直線のような,直感的な実数の見方にとらわれることなく,実数の厳密な構成法を習得する.次に高次元の実数空間であるユークリッド空間において収束性や連続性等の位相的諸概念を導入し,写像や関数の連続性の正確な意味を把握することが目標である.最終的に微分積分学で学んだ,代表的な定理(中間値の定理,最大値・最小値の存在定理)の厳密な証明を与え,微分積分学の理論的な補完を提供したい.
前もって履修
しておくべき科目
/Prerequisites
なし
前もって履修しておくこ
とが望ましい科目
/Recommended prerequisites and preparation
微分積分学第一,同第二,線形代数学第一,同第二
教科書等
/Course textbooks and materials
教科書:鈴木 晋一 著「集合と位相への入門 -ユークリッド空間の位相-」(サイエンス社)
参考書:一樂 重雄 監修「集合と位相 そのまま使える答えの書き方」(講談社) 手軽な問題解説書 兼 演習書
鈴木 晋一 著「理工基礎 演習 集合と位相」(サイエンス社) 教科書の演習書(教科書との重複が多い)
赤 攝也 著「集合論入門」(ちくま学芸文庫) 素朴集合論の易しい入門書
原 惟行・松永 秀章 共著「イプシロン・デルタ論法 完全攻略」(共立出版) ε-δ論法の詳細な解説書
リヒャルト・デデキント 著 / 渕野 昌 訳・解説「数とは何かそして何であるべきか」(ちくま学芸文庫) デデキント(Julius Wilhelm Richard Dedekind, 1831-1916)の格調高い原書(Stetigkeit und irrationale Zahlen. (1872) Was sind und was sollen die Zahlen? (1887))の邦訳
彌永 昌吉 著「数の体系 上・下巻」(岩波新書) 自然数論から実数論を丁寧に解説した不朽の啓蒙書
矢野 公一 著「距離空間と位相構造」(共立出版) 例が豊富で説明が詳しい(教科書より程度は高い)
森田 紀一 著「位相空間論」(岩波全書) 専門家による本格的な位相空間論の入門書(数学専攻の学生向き)
児玉 之宏・永見 啓応 共著「位相空間論」(岩波書店) 位相空間論最高の成書
結城 浩 著「数学文章作法 基礎編」(ちくま学芸文庫) 初学者向けの数学における文章表現解説書
B. Mendelson, Introduction to Topology, 3rd ed., Dover, 1990.
T. W. Gamelin & R. E. Greene, Introduction to Topology, 2nd ed., Dover, 1999.
J. G. Hocking & G. S. Young, Topology, rev. ed., Dover, 1988.
Ryszard Engelking, General Topology, Heldermann Verlag, 1989. 位相空間論の最も権威ある専門書
授業内容と
その進め方
/Course outline and weekly schedule
(a) 授業内容(予定)

第1回:1.1 論理(命題の真偽,論理演算,真理値表,命題の否定・対偶,同値命題,命題関数 等)
第2回:1.2 集合(部分集合,和集合・共通集合・補集合,空集合,ド・モルガンの法則,直積集合 等)
第3回:1.3 写像(定義域・値域,単射,全射,合成写像,逆写像,像・逆像 等)
第4回:2.1 実数の構成(有理数の演算,順序関係,有理数の稠密性 等)
第5回:2.1 実数の構成(デデキントの切断,実数の大小関係,実数の連続性と演算 等)
第6回:2.2 実数の集合の位相(最大元・最小元・上限・下限,実数列の性質 等)
第7回:2.2 実数の集合の位相(コーシー列,実数の連続性に関する同値命題,アルキメデスの原理 等)
第8回:2.3 集合の濃度(対等関係,可算集合,連続体濃度,対角線論法,濃度の比較,選択公理 等)
弟9回:2.4 実数値連続関数(関数の連続性,ε-δ論法,中間値の定理,実数の開集合・閉集合 等)
弟10回:3.1 ユークリッド空間(ユークリッドの距離・内積・ノルム,三角不等式 等)
弟11回:3.2 ユークリッド空間の位相(近傍,開集合・閉集合 等)
弟12回:3.2 ユークリッド空間の位相(内点・外点・境界点・触点・集積点・孤立点 等)
弟13回:3.3 ユークリッド空間上の連続関数(射影などの具体的諸例,逆像による連続性の特徴付け 等)
第14回:3.4 ユークリッド空間のコンパクト性(点列・部分列の収束,点列コンパクト集合,有界集合 等)
第15回:3.4 ユークリッド空間のコンパクト性(被覆,コンパクト集合,ハイネ・ボレルの被覆定理 等)

(b) 授業の進め方

 講義の前半(第1回-9回)では,全ての数学で必要となる数理論理,集合,写像の基礎を簡単な具体例を交えながら解説し,微分積分学の厳密な基礎付けを与える実数の性質を説明する.次に,それらの性質に基いて連続関数の代表的な定理を証明する.
 後半(第10回-15回)においては,有限次元の実数空間に自然な距離を導入し,点と点との近さを測る尺度からどのように連続性が様々な概念と結び付くのかを議論する.また,数列の収束性に関連してコンパクト性と呼ばれる概念から帰結される幾つかの重要な事実を紹介する.
実務経験を活かした
授業内容
(実務経験内容も含む)
/Course content utilizing practical experience
授業時間外の学習
(予習・復習等)
/Preparation and review outside class
 新しい事柄が毎回多数登場するので,次回の授業までにその回の内容を復習することは不可欠です.復習は教科書等の問題演習と例の自作をして下さい.数学を楽しむには(ある程度の時間をかけて)自分でよく考えることが何より大事です.例えば,ピタゴラスの定理(三平方の定理)の証明法は数百通り知られていますが,それだけ多数の考え方があることは自分でも証明できる可能性が高いことを意味します.実際,数学の素人が自らの証明と共に多くの証明法を収集した本「ピタゴラスの定理 100の証明法」を出版しています.時には(難しくない)証明を単に覚えるよりも自力で証明を考案した方がよくわかるし,自信にもなります.特にピタゴラスの定理の場合にはそういえます.私の経験では,高校時代に高木貞治先生の名著「代数学講義」を読んで,3次方程式と4次方程式の統一的解法を独自に見出したことが挙げられます.高木先生もドイツ留学時の経験で回想されておられるように,結局「数学は自分でよく考えることが大切」ということに尽きます.
成績評価方法
および評価基準
(最低達成基準を含む)
/Evaluation and grading
(a) 評価方法

 学期末にレポート課題(居室前でも配布)を与えて,その成果により主な評価を行なう予定である.

(b) 評価基準

 以下の到達レベルをもって合格の最低基準とする.

  (1) 集合,写像についての基礎的な用語と概念が概ね理解できている.
  (2) 数列の極限と実数の連続性について概ね理解できている.
  (3) 連続写像の概念を理解し,簡単な写像の連続性を判定することができる.
オフィスアワー:
授業相談
/Office hours
 東1号館,501号室,火曜,5時限を原則とします.但し,この時間に都合がつかない場合には,数日前に電子メールで来室予約をとった上で居室を訪問されたい.電子メールでの質問は固くお断りします.当該授業の内容以外の質問や相談には応じませんので悪しからず.
学生へのメッセージ
/Message for students
 嘗てギリシャの哲学者ソクラテスがいったとされる「無知の知」のように,私達はわかっているつもりでいても,実はよく理解していなかったという経験があると思います.例えば,高校までは有理数(分数)と無理数(平方根など)を総称して実数と呼んでいました.でも,無理数とは正確には何でしょうか?また,無限というのは有限でないことの1つの表現ですが,無限にも違いがあるとしたら,それはどういうことでしょう.実は,こういった素朴な疑問から現代の数学は始まったのだともいえます.これらの謎の中に秘められた数々のドラマを一緒に体験して行きましょう.
 この科目の内容は初学者がすぐにわかるようなものではないと思います.理解するのにかなりの長時間と忍耐を要するはずです.願わくば,充分に時間をかけて,自分で具体例を作ったり,証明のキーポイント(本質)を見抜いてもらったりして,数学の本来の楽しみを堪能して頂ければ幸いです.是非,この科目を通して数学における“証明”がどういうものかをじっくり考え抜いて理解してもらい,今後の数理系科目の学習に役立てて下さい.(20世紀中葉に一世を風靡した,フランスの数学者集団ブルバキによる,浩瀚な教科書『数学原論』の冒頭には「ギリシャ以来,数学を語る者は証明を語る」と記されています.)
 或いは数学に興味をもつきっかけに数学史や数学を築いた偉大な数学者達を知ってもらうのもよいのかも知れません.例えばニュートンの実像や講義にも登場するコーシー,ワイエルシュトラスといった数学者に興味のある方には次の見事な読み物があります.

  藤原 正彦 著『天才の栄光と挫折 数学者列伝』(新潮選書,文春文庫)
  E. T. ベル 著『数学をつくった人びと I,II,III』(ハヤカワ文庫NF)
  I. ジェイムズ 著『数学者列伝 I, II, III』(丸善出版)
  U. メルツバッハ & C. ボイヤー 共著『数学の歴史 II』(朝倉書店)
  ゲイル E. クリスティアンソン 著『アイザック・ニュートン』(大月書店)
その他
/Others
 特に予備知識というものはないが,論理的思考能力や抽象的・一般的な事象を把握するだけの根気と素養は不可欠である.理解するための学習時間はかなり必要であろう.初学者にとって容易でない“証明”を解説することが授業時間の多くを占めることになる.毎回復習することは必須である.例年,途中で履修放棄をする受講生がいるから,早い時期に自らの意欲と適性を判断してもらいたい.この科目は一般向けの「公開講座」ではないので,「種々の教養的話題」を紹介せず,単なるアイデアだけでなく,そのアイデアを論理的に正しく実現した“証明”を提供する.その際に多くの“証明”がアイデアのみではその実現には不十分であることを知るだろう.その種の地道な試行錯誤的な訓練がより進んだ数学書における論証を正しく理解するための基礎体力にもなり得るはずである.
 また,講義中に演習を行なう時間的余裕はないので,教科書・参考書等で自主的に問題演習を行なってもらうことになる.そのためにも(必要以上に)多数の参考書を挙げている.質問等があればオフィスアワー等で個別に対応するつもりである.
キーワード
/Keyword(s)
命題,集合,写像,濃度,切断,実数の連続性,近傍,開集合・閉集合,ユークリッド空間,三角不等式,コンパクト集合